【聖書箇所】 使徒言行録 1章6—11節 【説教題】 「キリストのご昇天」
【説教】 石丸泰樹牧師 一、主イエスのご復活後40日がたちました。弟子たちの心は、繰り返し主にまみえ、また親しくみ言葉を伺い、疑問を解いて頂き、聖霊を授けて頂く約束に励まされました。主のご受難の折のユダヤ当局への恐れや、強大なローマヘの恐怖から徐々に解放されていったことでしょう。言行録2章以降に記録されている弟子たちの堂々たる態度、2−4章で連続して語られるペトロたちの、主イエスヘの揺るぎない信仰に支えられ、愛の力に満ちた説教の内容が、彼等の受けた聖霊の力の豊かさ、暖かさを私たちに示して下さっています。 「悔い改めなさい、洗礼を受けなさい、罪を赦して頂きなさい (2:38) 」。 二、 「主イエスの宣教のみ言葉は『時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい』でした。「神の国を何にたとえようか (マルコ4:30)、からし種のようなもの (マルコ4:31)、成長する種のようなもの(マルコ4:26)」。即ち、伸びて行く、豊かに成長する力のようなものだと思われました。しかしどういう訳か、それは実現していません。使徒たちの問いは「神の国を建てなおして下さるのは、この時ですか」でした。 AD33年頃、エルサレムの神殿は、大修理中でした。これはBC40年ローマ元老院のカエサルによってユダヤの王に任命されたヘロデが、出身がエドム人であったことなどでユダヤ人から忌み嫌われ、統治に苦労し(マタイ2:2-19)、ユダヤ人の歓心を買うために行った大工事でした。当時地中海世界で最も美しい建築物の一つでした(マルコ13:1)。着工はBC20年で、ヘロデ大王の死後も息子たちの手によって工事が続けられ、これの完成はAD64年でした。一般のユダヤ人たちも、ヘロデ一族、サドカイ派と共に神殿修復工事の完成によって、民族の誇りと偉業がローマ帝国の中で輝き渡ると期待していたのです。使徒、弟子たちもこの時代のユダヤ人に影響され、神の国の実現は、エルサレム神殿を中心とするユダヤ人国家の再建であると熱烈に期待する気持ちをもつこともあり得たことでしょう。 6節の「イスラエルのために国を建て直して下さるのは」という問いはそのことを示していると言えましょう。この「建て直す」という語は「元の状態に返す、再建、回復する」という意味です。昔の栄光をもう一度、ということでしょう。 三、聖書の「国」という言葉は「バシレイア」というギリシャ語です。これは「統治、支配」と言う意味の言葉です。国はどこまで、またいつまで「支配が及ぶのか」ということを意味します。領土、統治区域は古代の世界でも、21世紀の現代でも流動的なものです。古代エジプト、アレクサンドロスのマケドニア大帝国、ローマ帝国、神聖ローマ帝国、ナポレオンのフランス帝国、ナポレオンの侵攻を撃退したロシア帝国。地上の国で永遠の支配を実現した例はありません。この「理想の実現」を目指して、鉄製武器をヒッタイトは手にしました。高い城壁や火薬を作り、確実に多くの敵と定めた人々を最小の損失で殺す大軍団を編成する歴史が国家建設の歴史でした。 しかし全く違う歴史がベツレヘムから、天使と天の軍勢の賛歌に祝福されてこの世に始められました。敵を愛し、迫害する者のために祈る(マタイ5:44)、隣人であるすべての人々を愛し、共同体を共に築いていこうという決意が、共感を呼び、手を取り合い、励まし合って、支えあって進む人々の群れが新しい歴史を築き始めました。「あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。互いに愛し合うならば、それによってあなたがたが私の弟子であることを、皆が知るようになる(ヨハネ13:34.35)」。愛が新しい国の憲法です。判断の規準が愛です。行動の指針も愛です。手段の変更も、交渉の進め方も愛です。個人の、家庭の歩みは愛です。教会総会、全国教会総会、世界教会協議会、すべて第1条は愛です。 四、新しい掟はもう与えられました。すぐにでも証人として働くために立上がりましょう。 「時や時期は、あなたが力を受けた時」でよいのです。私が立ち上がる時は、「父なる神様が気付かせて下さいます」。 「地の果て」とは「一番はし、終り、最低の、卑しい」など色々な意味があります。あなたは「ここで終りだな」と思うところで止まってもいいのです。「ここが最低のところかな」と思うところまで降りてみましょう。「天を見つめていた」は「熱心な見つめ、凝視」です。キリストが昇天して、進み行かれる至高の世界を見つめ抜くのです。しかし至高の世界とはキリストご自身のご人格に現れていますから、あの慕わしいお姿とお言葉にしっかりと目をそそぐように、聖書を読むのです。 五、ご昇天までの40日に、主は本当に、疑いのない、全きご復活によって、いかなる時にも「生きておられ」、まったく「自由な方法で私たちを助け」、励まし、進む道を示して下さり、支えて下さることを確信させ給うたのです。神の国とは唯一「愛」を憲法として定めている国、愛が神の国(つまり全宇宙)の中で起こるあらゆる問題を解き、答えを出す唯一の公式であると大まじめで主張する国なのです。 主よ、「父がご自分の権威をもってお定めになった時」の中に自分の人生の誕生と死をそっと置いて、生かしめてください。 【主の祈り】
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